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自宅で看取るということ・自宅で死ぬということ エピソード

エピソード1 老衰の方のお看取り


この夏、90代のある方が亡くなりました。

自宅で亡くなることが非常に難しくなったこの現在において、とても尊厳のある最期を迎えられたと思っています。それは、その方が今まで過ごして来た人生そのものと言っていいのかもしれません。

亡くなる前日まで、食事はおいしそうに自力で摂取し、娘さんの介助があったものの排せつの半分はトイレで行っていました。最期の朝、娘さんと共にお風呂に入って、「ありがとう、お嬢さん、お世話になりました。」と言葉を残し、意識が無くなりました。その後すぐに私に電話があり、日曜日の早朝でしたが20分でかけつけ、訪問した時には、息を引き取られた後でした。訪問診療の先生にご連絡したところ、あまりに突然の急変だったので、電話の向こうで先生が絶句しているのを感じました。

利用者様は、私達に対して、いつも丁寧に接してくださり、訪問後には「ありがとうございました。ますますのご活躍を祈っています。」とおっしゃるような粋な方でした。

病院から退院後、1年以上に渡る介護で、娘さんの疲労の蓄積もあったのですが、「ここまで介護してきたからには、最期は家から送り出してあげたい」とおっしゃっていて、見事ご自宅からお見送りすることができました。

在宅での訪問看護を10年以上経験してきた私ですが、最期の最期に言葉を残された方は、お目にかかったことがありませんでした。その方らしい本当に粋な最期だったと思います。

後日、娘さんがステーションにごあいさつに来られ、「これからは、母の介護の経験を生かし、私自身の人生を歩んでいきたいと思います。」と晴れ晴れとした笑顔で手を振って帰られたのが印象的でした。


エピソード2 末期癌の方のお看取り


先日、60代の方がお亡くなりになりました。癌を患い長いこと闘病されており、ご本人様は、生きる希望を最後まで持ち続けていました。

私達は、週3回の訪問看護を通して、ベッド上で体を拭いたり、洗髪をしたり、むくみのマッサージを行ったりなどをしていました。気管切開をしているため、言葉を話すことが出来ない方でしたが、ご家族も本人も先進医療を含め、癌に良いといわれることは、いろいろ試してご病気と正面から向き合っていました。夏を過ぎたころ、残酷ながら、癌の進行が勝り、全身黄疸が出てしまい、余命一週間と宣告されてしまいましたが、それから一カ月以上も状態に変化無く、奇跡的だと医師から言われるほどで、寝たり起きたりの日々ですが、大好きな落語のテープを聞いたり、テレビを観たりするなど、普段通りに過ごされていました。しかしだんだんと胃ろうからの食事も拒否するようになり、少しずつ眠っている時間も長くなってきました。それからしばらくして、身の置き所の無い痛みが出てき、モルヒネの持続点滴を開始し、痛みはゼロになり緩和されたものの、もう本当に余命数日程度と宣告されたある日、訪問すると、にこにこ出迎えて下さり、ホワイトボードに「会えなくて寂しかったよ」と書いて下さいました。その表情からは、癌を受け入れ、自分の運命を受け入れ、残された時間を穏やかに過ごしたいという気持ちが伝わってきたように感じました。

ご家族には、これから起こり得るであろう旅立ちへの経過を説明し、ご家族が出来ることをお話ししました。聴覚は死の直前まで機能していること、意識はなくとも、名前を呼びかけたり、感謝の気持ちを伝えたり、たくさん話しかけることで、反応は無くても伝わるということ、そして、手を握って、体をさすり、大切な人のぬくもりが感じられることで、安心して眠ることが出来、精神的にも落ち着き、癒されることをお話ししました。

亡くなる前日、訪問した際、お客様がいらしてて、皆でベッドを囲み、ご本人の周りで、賑やかに昔話をしました。奥様との馴れ初めや、お子さんたちが小さかったころの思い出話をしていると、血圧が40台でほとんど意識が無かったのに、うっすら目を開け、顔をゆがめ、涙を流されました。翌朝、眠ったまま静かに息を引き取り、ご自宅で、ご家族と一緒に最期の死後の処置をさせていただきました。大好きだった洗髪を行い、お元気だったときに着ていたお気に入りのシャツとジーンズにジャケットをお着せすると、「まるで今にも起きてきそうね。」と娘さんの笑顔が見られました。奥様が「もう少し早く治療を開始していたら、死ななかったかも。お父さんの運命だったのね。」とおっしゃっていました。ご家族としては、こうしてあげれば良かった、あんなこともしてあげたら助かったのではないかと思うのは、当然の心理ですし、最愛の人の最期を受け入れるのは、簡単なことではありません。何も考えられなかったり、ただただ辛かったりすると思います。

でも決して、なにもできなかったわけではありません。こんなに穏やかなお顔で旅立たれたということは、ご家族の力があってこそです。ご家族と共に病気と闘い、病気を受け入れ、精神的にもご家族の介護が何よりの支えになったと思います。そして、数々の素敵な思い出があるからこそ、穏やかなお顔で旅立たれたのだと思います。

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